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石黒 謙吾

著述家・編集者・分類王

1961年 金沢市生まれ。書籍の執筆と、プロデュース&編集を。

●著書は、映画化された『盲導犬クイールの一生』、『分類脳で地アタマが良くなる』『2択思考』『図解でユカイ』『エア新書』『ダジャレ ヌーヴォー』『ベルギービール大全』『短編集 犬がいたから』『CQ判定 常識力テスト』『ナベツネだもの』など、硬軟取り混ぜ50冊ほど。

●プロデュース・編集した書籍は、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一、菊池良)、『ジワジワ来る○○』シリーズ(片岡K)、『負け美女』(犬山紙子)、『餃子の創り方』(パラダイス山元)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『ネコの吸い方』(坂本美雨)、『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』(ナカムラクニオ)、『凄い!ジオラマ』(情景師アラーキー)、『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』(石黒由紀子)などジャンルいろいろで200冊超。

●高校野球とビールと犬と銭湯とキャンディーズ、そして熱いモノすべてが好き。

●2008年に復活した、新生・全国キャンディーズ連盟代表。

日本ビアジャーナリスト協会 副会長

日本ベルギービール・プロフェッショナル協会 理事

草野球チーム「星涼」 代表・監督・投手・捕手・内野手

●ラジオ番組レギュラーパーソナリティ ★進行中→第1土曜26時
「頭の中に引き出しを」(JFNー地方FM17局ネット)

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著書いくつか

プロデュース&編書いくつか


最新の記事 2022.6.6 編集者部

水島新司さん研究本を4年間出せなかった理由『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』

【プロローグ】
<水島本、出せなくなりました。いま水島プロから電話があって
本が進んでるそうだけど出したら訴える、と言ってきて>

・・・・・・・・・・・・・・・

2022年GW明け、苦労したプロデュース&編集の本が発売になりました。
この<苦労>が超特殊なケースであり、
それはなんだったのか、という記録を、
これからの出版やコンテンツビジネスにおける<許諾>
について考えるための参考になるかもと、ブログに残しておきます。

特に出したあとで、
「水島さんが亡くなったタイミングに合わせて、なんですか!?」
と何度か言われました。
そう考えるのも自然だよね、とも思ったので、
いえいえ、全然違うのです、とお伝えしたい気持ちもあります。

『ドカベン』の連載がスタートした72年に
11歳で読みふけっていた野球少年にとって、
(青年誌連載だった『あぶさん』はさすがにコミックを76年の高1から)
水島マンガは極上のエンタテイメントであり、
かつ、野球というスポーツとともに人生を歩むきっかけに
なったと言っても過言ではありません。
多くの野球好きの方と同じく、水島新司さんは超絶リスペクトする存在ですから
なおさら、この本への想いは強いですし。

僕が本をプロデュース&編集するときはいつも
<売れそう>とか<通りそう>というよりも、
自分が読みたいもの、残したいもの、
マニアックなもの、好みのものに向かってしまうサガなので、
企画が通りにくい面での苦労はいつものこと。
30社断られてやっと、とかはもう慣れっこになってます。
いま、266冊作ってきましたが1冊平均15社NGとして、3990回。
少なく見積もってもすでに3000回はNGもらってきました。
出せない理由は当然そこ、<版元で通らない>からなのですが、
今回の苦労はそれプラス、
ある外的要因と版元の責任という問題点がありました。

旧知の、著者・オグマナオトくんの、
水島新司野球マンガに関する知識と考察を読んでいて、
この<予言のすごさ>は本にしておかねば、
日本野球界、日本漫画界の貴重な財産の損失と思い立ち
お声がけしたのは2018年6月。刊行の4年前でした。
まずは打ち合わせをし、企画を通すための見出しづくりを依頼しました。
僕が本を仕込みはじめる際は、ほとんどがここからです。
いただいたあとで、いまひとつだな、通せないなと思えば
ディレクションして何度もいただくこともあり
それだけで3ヶ月とか半年とかかかるようなこともありますが
クレバーなオグマくんは、微修正1回だけで7月には見出し案UP。
その後4ヶ月、僕がテンパって止まっていたものの
11月に企画書書いてまずは7社出しました。

最初から企画書出さないと決めてあった版元は、小学館、講談社、秋田書店。
水島さんの漫画を出してるところは当然ながら
ご本人許諾となるので、OKこないはずで。
いままで水島作品は、1冊も電子化されておらず、
また二次使用的なことはことごとくNGだと各方面から聞いてました。
その流れで一ツ橋系の集英社、音羽系の光文社も同様に。
<新潟のドカベン銅像撤去騒動>以外にも
使用禁止の事例はありましたしね。

そして最初に出した7社の中の1社、
紀尾井町にある超老舗の文芸系大砲系出版社
からたいへんいい感触のお返事が!
……言ってるのと同じか、文藝春秋です(笑)。

そこでまず版元担当編集者が、
<研究本>だけど、一応、この内容で権利的な方面で問題がないかと、
社内の法務セクションに聞いてくれ、OKですよとバックがありました。
それはそうです。
昔『サザエさんの謎』という研究本がベストセラーになったこともありました。
誰かの作品や人物像などを<研究や論評>するのに
相手に許諾を求め始めたらそれはもはや論考ではありません。
<OKしたことしか書くな>となったら
ちょうちん本ばかりになる可能性がある。
ただしそれが、誹謗中傷や貶めたり揶揄したり、となると話はまったく別ですが。

一般的な論考で功罪含めた考えや思いを記すのは
書き手として当たり前の権利です。
ましてやこの本では、水島新司という偉大な漫画家の作品を紐解き
その予言のすごさを詳細に綴る内容。
問題あると考えるほうがどうかしています。

と、文春はさすがの常識的判断でOKだったのですが
しかしこの版元、超有名スポーツ雑誌を抱えています。
……言ってるのと同じか、『Number』です(笑)。
その雑誌では、水島新司さんは昔よく登場したり
絵が使われるなどつながりがある。
そこで担当者が社内確認で編集部に伝えたら
<編集部はいいけど水島プロに聞いてからにしてください>となった。
僕はもうこの時点で、<あ〜あ、ダメだこりゃ……>の気分でしたが
担当者は、<ではオフィシャル本として絵も使わせて頂き印税も配分して
というお願いをしてみます>と丁寧に手紙を送ってくれました。
しばしで戻ってきた返事はやはり<NO!>
<こういうのは絶対にダメだからオグマさんによく言っておいてください>
という意味のバックがあったそうです。
この時点でまず1社消えです。

この機を逃したあとは、20社ぐらいNGが続き年末を迎えました。
当時のメールで、僕がオグマくんに出した文面にこうあります。
<意外に苦戦してます。。。こんな面白いのに!
水島プロに忖度(笑)の会社もままあり>
年明け以降もNGが続き30社を超えていった中、
2019年11月になって、オグマくんの知り合いの編集者に話したら乗ってくれました。
辰巳出版で、僕は書籍のつきあいはゼロでした。
そして、正式に会議で企画が通り、制作費調整もし、
2020年9月売りで進み始めました。

デザインは寄藤文平さん。DTPはユニオンワークスさん。
寄藤さんに本文フォーマットを上げてもらい、
オグマくんには本文より先に、年表と作品リストを書いてもらい
DTPで表組みを完成させました。
カバーデザインも進めて、あがってきます。
本文も下書きはできて、この時点で6月。
そこそこ優良進行です。
ここで、版元の女性編集者が退社となってのですが
上司の偉い方が引き継いでくれてまずは問題なし。

さてでは、帯コピーをどうしようか、有名人の方にもらいますか?
と版元に打診してみたらぜひと。
ならばますは思いついていた、
水島漫画に詳しい芸能人にあたったら数日経ってNGが。
理由はスケジュールでしたが
<ああ、これはたぶんオフィシャル本じゃないから
水島さんへの気遣いだろうなあ>とは僕は予測しました。
では次にと、某元野球選手の事務所にHPのフォームから当たりました。
すると3日経っても返事がない。
通常これぐらい経てばなにかしら戻ってくるので
おかしいなあと思っていたら、版元の上司の偉い方から突然電話。
<水島本、出せなくなりました。いま水島プロから電話があって
本が進んでるそうだけど出したら訴える、と言ってきて>というのです!
<本が出たら水島プロからなにか言ってくるはずですとお伝えしたうえで
そこを織り込み済みで刊行きめて頂いたはずですが!?>
と何度も食い下がったのですが、
<そうなんですけど、いやすごい剣幕で電話あって、揉めたくないので>
<どうしようもないんですよ>の一点張り。
それはあまりに無体な……出版残酷物語。

野球選手事務所が水島プロに連絡入れたのは固いでしょう。
その電話から2日後ぐらいに
<スケジュールでお請けできません>ときましたしね。

電話で粘りに粘ったものの、最後はあきらめざるを得なく。
そこでまず考えたのは
デザイナー、DTP、さんへの進んだところまでのお支払い、
そしてオグマくんの資料購入代9万ほど。
最初は辰巳側も、
<本が出ないのでお金も出せない>という言い分でしたが
さすがに一方的に刊行中止でしらん顔はあまりと交渉です。
そしてこうしました。
<他で刊行できたらうちから返金しますので、
最低限進んだ分の45万円をまずはまとめて振り込んでください>と。
提案した金額の内訳は
デザイナー15万、DTP6万、オグマ資料代9万、うちの実費2万、
オグマ7万、石黒6万。
さすがにこれは了承頂き、覚書を交わしたうえで
振り込んで頂き、スタッフには上記分を振り込みました。

これが2020年7月のこと。
その後もじわじわ新たな版元にあたるも通らず、
2021年1月に水島さん逝去。
このタイミングでオグマくんがネット記事を出したこともあり
FBで止まってる企画があると書いたら
問い合わせてくれた版元が少しありました。
中の1つ、浜松町にある雑多系中堅出版社の担当はけっこう乗り気でした。
……言ってるのと同じか、扶桑社です(笑)。
が、上に通すとやはり揉めるのがしんどいのか
玉虫色の理由でNGが戻ってくる、などありました。

そして迎えた1月末、旧知の版元社長・Yさんに2年ぶりにお会いした際に、
このいきさつを話したら意気に感じて頂き、
ごま書房新社に強くプッシュしてくれたおかげで企画決定!
そうなれば早いほうがいいので
すぐにリスタートしてGW明け刊行にこぎつけました。

刊行前、校了も終わったので、すかさず事務案件すっきりさせたく辰巳出版に電話。
顛末を話して、返金の件についてご相談。
初版制作予算も潤沢とは言えない状況でしたので
担当の偉い方に返金をたとえば半分にしていただけないかと
願いしたのですが、できないですと。
さすがに厳しいので、社長さんにも面会に行かせてもらい
状況説明してお願いしたのですが、
<うちになんのメリットもないお金は出せません>ということでだめでした。

でしたのですぐに振り込みまして、きれいさっぱり。

とはいえ、とにもかくにも4年越しで刊行でき、初版制作費も最低限なんとかなった。
こんなありがたいことはありません。
つないで頂いたYさん、そして刊行してくれたごま書房新社には
感謝にたえません。

長くなるので個々の事例は書きませんが、
過去数回、版元の一方的な都合で進行してる本のはしごを外されたことはあります。
しかしこの本では、版元都合だけではなく、
その元となった外圧が相当特殊なものでした。
ゆえにこの間、クリエイティブ以外の大いなる壁と言いますか、
刊行実現への苦難の道を思い返すと感無量です。

そんな苦労と真逆に編集作業は楽しいばかりでした。
何度もゲラの同じ箇所を読み返しても
「ほんとうに、水島新司はすごいわ……」と独り言をつぶやく日々。
まずは、<もくじ>で見出しを見ていただくだけで
この<予言者>の凄みがおわかりになるかと思います。
また、高校野球好き仲間である寄藤文平さんによる
カバーデザイン、本文デザインとも素敵です。

めっちゃ長くなりましたが
そんなわけで、難産で生まれ落ちたこの本、
野球好き漫画好きに限らずご堪能いただけるはずです。
よろしくお願いします。

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