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2010.2.26 ヒト部

本物のエコとは「人を愛する気持ち」

NHKの「美の壺」が好きだ。
「アート観賞マニュアル」とサブタイトルについているが
まったくマニュアル感は感じす、むしろエンタメである
マニアックになり過ぎず、ざっくりとカジュアルに、
いい意味で浅めに知的好奇心のまさにツボをきゅきゅっと押してくれる作り。
僕は和的なるものに惹かれるので見始めた。

体調面からであろう、昨年、谷啓さんが退かれたのは残念だったが、
意外なキャンスティングで継いだ草刈正雄がハマってきているように感じる。

すでに3年以上158回が放送されている。
谷啓時代は和モノオンリーだったけど、
草刈時代に入って(なんか縄文時代っぽい)
ピックアップするテーマの範囲を広げて、
洋も含めた生活周りにある美的なものを拾っていく。

あまりにいい番組だったので、
本を作りたくて、2年ほど前には
人づてにプロデューサーに会いに行ったほどだ。

そんな大好きな番組に、今晩、
尊敬する人物がフューチャーされる。

田中忠三郎
青森で民具の収集、研究を続ける在野の民俗学者。77歳。
黒澤明、寺山修司も瞠目し、
都築響一さん撮影の『BORO』という本にもなった
BORO―つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化
2万点のコレクションについても逸話はありすぎて
書ききれないが、この方を敬愛できるのは、
その、人の心に向かう姿勢である。
もちろん物を集め、研究しているのだが、
すべての根底には、
人々が昔から守り、つなぎ、愛しててきた生活と人の心そのものを、
民具を通じて残していきたいという思いがある。
本人は決してそう強調するわけではないが、
そこが端々に伝わってくるから、聞いている人の胸を打ち
この人のためなら、と人が動く。

黒澤映画に貸し出す昔の衣装何百人分もの収集依頼があった時、
自分が高校生の頃見て自分の信念を支えてくれた
「我が青春に悔なし」の恩返しだからと、
お金はいりませんと自腹で集めた。
そのお大きなお金を借りるために銀行に出向き、
「担保はありますか?」と聞かれ
「キンタマ2つあります」と真顔で言ったら銀行も貸してくれたという。

高校生から20代まで、縄文土器発掘に没頭した。
野の葉っぱを食べる極貧生活を送りながら
6年にもわたり、たったひとりで真冬の田んぼを素手で掘り続けた。

その後、民具収集へと活動は移ったが
津軽の村々を地道に、それこそ地を這うように訪ね歩き、
お金はどこからももらうわけでも集めた物を売るわけでもなく
ただただ物と歴史と人への熱情で集め続けていった。
その中から得たものは物だけではない。
他意なく訪れてくる人間に対して心開いた老人たちが
先祖代々語る継がれてきた生活ぶりををたんたんと語っていった。
そんな何十年にもわたる無償の行動が、
図らずも、ひとりの貴重な歴史の語り部を産んだのである。

昨年、先生の本、『物には心がある。』
をプロデュース、編集させていただいた。
書店流通はいまのところしていないが
アミューズミュージアムで買うことができる。

この帯に書いたメインコピーが
本物のエコとは「人を愛する気持ち」

消えゆく生活道具と作り手の思いに魅せられた人生
次世代に伝えたい「やさしさ溢れる暮らし」

物を産み出すのは人間。
人間を生み出すのは人間。
話を聞くたびに、僕の思いはそんな、
だからどうしたという禅問答のような当たり前のことに帰結した。

深いやさしさに触れた時、それが自分に向かうことでなくとも人は胸を詰まらせる。
先生の話を読むゲラに向かい何度涙したか。
浅草に行く機会があればぜひミュージアムに立ち寄り、
先生のコレクションを見て
この本を求めていただければと思う。
きっと、すり減りがちな「人っぽい」心をリペアできるだろう。

本の終わりの項目、僕の人生の指針になったとも言える
一節を記しておきたい。

(以下、抜粋)
──人は自分でなんでもできると思ってはいけない。
できないこともあるものだ。死んだら、誰かの手を借りて、焼かれて骨になり、
その骨を土に還すため、埋葬してもらわなければならない。
生前、周囲の人々に慕われ愛されていた人は、
亡くなってからも近隣の人たちが集まってきて、その人をいたわり、
別れを惜しむようにその身体のあちらこちらを手のひらで撫さすると言う。
だから遺体が硬くならない、つまり死後硬直が起こらないので、
丸い樽の形をしたお棺にも簡単に入れることができた。
ところが、生前は栄華を極めた人間であっても人々に好かれなかった者は、
死んだら最後さする者など誰もおらず、

遺体は硬直し、棺桶に入れるだけでも一苦労だったという。
いまわの際に、「もっと金を稼いでおくべきだった」
と嘆きながら死んでいく人間はいないと言う。
人の本当の価値はその人が死んだときにわかる。
だからこそ、普段から人さまに優しくしておかなければならない。
人さまを馬鹿にして笑ったり、罵ったりしてはならない。
祖母は繰り返しそう語った。

タナチュウ先生の番組、今晩です。

「青森BORO」(番組トップで予告動画アリ)
今晩(26日 金曜)夜10時から。
再放送は、たぶん今度の日曜夜中0時15分から。(翌週かも?)

見て欲しい。

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