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2010.4.12 カネ部

87万部売れてもビンボーな理由&出版流通のしくみ

よく勘違いされるんです。お金持ってると(笑)。
みなさん曰く「あんなに売れてドラマや映画にもなったんだからさぞや…」
NOOOOOOOOO!!(石丸元章風)

今日は具体的数字をあげて、
『盲導犬クイールの一生』1冊の収支と他の状況を説明したいと思います。
出版に関わっていない人には特に興味深いかと。

まず、単行本の売上げ(厳密には刷り部数)は、87万部。初版が6000部でした。
初版部数が少ないので、定価は、1500円(税込)。
印税は、通常、単著ならば10%。
共著などでは、その10%を分配しますが、
配分の割合は千差万別で長引くのでまた別の機会に。
この本は写真の秋元さんと僕、そして盲導犬関連団体への寄付金で、
3分の1づつとしました。

■本の総売上げ金額 1500円×87万部=13億500万
(今知ったけどこう言われるとすごい迫力!)

本の利益は、ざざざっくり言うと、以下の感じ。
細かいことはこれも長くなるので割愛。
■流通的な本の利益配分<書店2割、取次1割、版元7割>
取次ってのは、まあ一言で言えば卸やさんね。
ですので、
■全国の書店ひっくるめての利益=2億6100万
■各取次の合計利益=1億3050万
■版元・文藝春秋の利益=9億13500万

電卓叩いてたら、単位の大きさに他人事だと思えてくるが
待てよこれは自分に関係した話だと気を取り直して続ける、、、

便宜上利益と書いたけど、あくまでこれは粗利、です。
特に、版元にとってはこの金額は「売上げ」であり、
ここから、まずは「印刷代」と「制作費」を払い、残りが「粗利」的金額となる。

ここに社員の給料ほか会社運営の経費をどこまで含めて
本の定価と採算分岐点を考えるかは各社いろいろ。
僕は聞いたことないけど、作って思うのは
大手は定価が上がり気味かな。角川、文春、などは特にそう感じる。
ワニブックス、扶桑社は、こちらが「そんな安くして大丈夫!?」
と心配するほど安い定価付けをしてくる(笑)。
幻冬舎、双葉社もけっこうがんばるかも。

初版に関して「印税」と書かずに「制作費」と書いたのは、
初版は、デザイン料、イラストや写真など、印税以外のクリエイティブの料金、
さらに印刷所に入れる前のDTPも別建てだったりするため。
ただしこれもケースは千差万別につき割愛。
重版からは、純粋に印刷するだけなので印税のみです。
初版刊行時に交通費や宿泊費などの「取材経費」が出ることもありますが
期待されていないこの本では当たり前のようにゼロ(笑)。
ちなみに「盲導犬クイールの一生」の場合は、
社内のデザイナーさんで、写真は著者の印税分、イラストは使用せず、
DTPは印刷所だったので、制作費=印税となっています。

なので、
■初版刊行時の印税3者トータルは、
1500円×0・1×6000部=90万

僕にはその3分の1なので、30万でしたが、
取材で京都に1往復、都内もろもろ駆け回った交通費、打合せ経費、
オーストラリアへの追加電話取材代、
さらに取材謝礼として僕から、3名の方に数万づつお支払い、
などなどで計算したら12万円かかってました。
なので、いわゆる純利は、3年がかりで18万円。

写真の秋元さんにお会いしてこの本を作ろうと
動き始めてから刊行まで、ぴったり3年がかりだった。
10社以上の版元に断られ、文春でも人事異動で2度も
ボツになり、そのたびに別部署に出し直した企画でしたら
取材とか原稿とか写真選び以前に、刊行を実現させるために費やした
エネルギーと時間は今自分で思い出してもいやはやよくやったわという感じ。

本が出来て1ヶ月後に手にした18万円はありがたかった。
入金があと1カ月早ければ、質屋に入れた婚約指輪を流さずに
済んだのが悔やまれたが(笑)。

ここで版元側に話を移すと、まず印刷代金。
この本では僕は著者として関わっていたので
印刷所とのやりとりは一切関知していないので印刷代がいくらだったか知らないが、
相場から推測すれば、152P、2C(モノクロじゃないんですよ)
本文はマットコート系斤量あり、ハードカバー、6000部で、
おそらく200万〜250万ぐらいじゃないかな。

印税90万と200万なら、合わせて290万、まあ300万としましょう。
300万を6000部で割ると、500円。
この500円が、「1冊あたりの原価」となる。
定価1500円のうちの33%。
これはけっこう版元にとっていい数字だと思います。
なのでもしかしたらもっと印刷費高いかな?

70%で取次に“卸す”(委託ですが)ので、
その金額は、1500円×0・7=1050円。
歴史ある版元は、この条件がもっといいはずで、
たぶんですが、65%〜67%という気もしますが
僕、流通はシロウトなのではっきりわかりません。
まあ、話をシンプルにするため、1冊1000円にしましょう。

版元側から整理すると、
定価1500円の本を、版元は1000円で出す。
そこにかかっている原価は、500円。
ということは、500円儲かる(粗利)。
利益率50%
なのですね。

取次が、150円もらえる。
書店が、300円もらえる。
リアルでわかりやすくなってきました。
著者に150円入る。
それを3で割る。
50円。。。。。。。
リアルすぎて情けなくなってきました(笑)。
さっきの億単位のセレブ感はどこにいったんだおい!

1冊で文藝春秋が500円粗利なら、×87万で、
4億3500万。
最初に出した売上げ配分9億13500万という数字の半分に
ほど近いのでつじつまが合いますね。
その後、ドラマ原作権料、映画原作権料、海外翻訳本、DVD原作権料、などあり、
あの1冊で、文藝春秋は、おそらく5億円ほど利益をあげたわけです。

で、GOOLE EARTHのようにミクロな僕のほうに降りていくと。
1冊の印税が50円なので、ちょうど版元の1割。
って、5000万じゃん!!
すげー!! と思われることでしょう。
僕もかなり経ってからこの数字出した時はそう思ったし。
しかしこのセレブ感が一気に庶民的になるのはここから。

まず、期間が長い。
3年がかりで作って、あそこまで売れたのも3年がかり。
つまり都合、6年間での実入り金額なわけです。
4月に刊行して最初の重版は2ヶ月後、3500部でした。
マスコミに取り上げられ火がつき始めたのは、秋ごろから。
正月明けにはドラマ化、映画化の話が出て、
NHKドラマシリーズになったのが刊行から2年後、
映画になったのは、3年後。
本はそのタイミングで、さすがにががっと重版ラッシュとなりました。

あ、よく言われることでみなさん興味深いと思いますが、
映画とドラマ、原作料聞いたら、「え、それだけ?」と驚くと思います。
原作は映画やドラマになって本が売れてお金が入るから
権利そのものには大金払うものではないみたい。

ぶっちゃけ言いますと、
NHKや松竹から文春に払われた金額は
うっすらとした記憶では
■NHKドラマ 150万ぐらい
■松竹映画  500万ぐらい

少々の手数料が文春に入り、それを
石黒、秋元、寄付と、3等分すると
■NHKドラマ  45万ぐらい
■松竹映画  150万ぐらい
ってなもんです。
みなさんがイメージする一獲千金のような夢の話とはほど遠いです。

とはいえ、とにかく5000万なわけですが、
これをまず6年で割ってみます。
5000万÷6=833万
1年あたり833万。
これがサラリーマン的年収なら十分過ぎる金額だし、
普通にフリーでも全然オッケーでしょう。
しかし、事務所運営してるとそうはなかなか。
特に大きいのは、事務所の家賃よりも給料です。
ここらも長引くのであらためますが、
もともと人を増やしていく気がまったくないまま会社を作ったのですが、
どうしても編集を学びたい!というアツイ人がいると入れてしまってました。
よく、編集プロダクションであるケースの、
雑誌やムックの仕事取ってきてがんがんやらせるとかは
絶対にやりたくなかったので、書籍作りを一からたたき込んでました。
いいヤツばかりで楽しかったけど、
社員がいたら儲かると実感したことは皆無でした。
人まねで売れる本作るよりは、
オリジナルな売れない本のほうがいいと言ってましたから(笑)。
あ、もちろん売れた方がいいし、そのネタの中で最善を尽くすけど
売れるだけに目がいくのなら、違う業種でいいじゃん、という感じで。
それで一時期、社員3人までいまして
すべて僕が目を通してたので自分の本が書けない(笑)。
でも給料は払わねばならないのでまた仕込むという
繰り返しで、銀行の借り入れもして、お金は回していました。

事務所借りて、コピー機、パソコン、光熱費、
交通費、会合費、借り入れ返済など支出あり、
給料を3人分となると、額を出さずとも想像つくでしょうが
言ってしまうと毎月160万ぐらいは軽く出ていたかな。
年で、2000万。
クイールの833万ではまだ1200万ショート(笑)。

実際は本が売れてから入金されたので
6年ではなく3年で5000万入ってます。
単純に3で割れば1600万。

しかしここからがまた悪夢が(笑)。
税金です。
ガツンと一気に売れた時の波は3つぐらいありました。
マスコミ登場時、ドラマ時、映画時。
これがまた決算にまたいで入金されたりするので
黒字になってしまうのですよ。
  ↑喜ぶとこだって(笑)
借り入れ返済に回そうと思ったら、それは経費にならないとこの時知ったほど
経営というものに立ち向かったことがないもんで。
それで2回ほどそこそこの額の法人所得税を納めました。

でも、さすがに最初にがーっとお金が入り始めた時は
これはマンションが買えるかもと思い、
90%ローンで3600万のマンションを買う頭金その他を
払うことができたのは大きかった。
90%ローンでもなんやかんやで3割ぐらいかかるのでびっくりしたけど。
毎月9万と管理費等で3万の計12万なので以前の家賃より安くなった。

というわけで、現在、会社のストック、個人の貯金ともナシ。
常に薄氷を踏む思いで、生きております。
そんな状況をネタにして楽しめるようにすらなってきました。
「いまわの際にもっと金を稼いでおけばよかったと思う人はいない」
という言葉を励みに生きているワーキングプア49歳でございます。
でもカミサンにはあまりにも申し訳ないので
少しはラクな気持ちにさせないと。
がんばろう。

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